「リーロゥリーロゥ スパーイダーララ・・・ラ、ララララン。 ラーラララララ、ランラランララ・・・」



拳を握り、人差し指と親指を角度が垂直になるように立て、右手の人差し指と左手の親指、左手の人差し指と右手の親指をつけ、くるりくるりと手首をひねる。 それがまるで壁を上って行く小さな蜘蛛のように見える・・・という。 カメラのファインダーごっこと「小さな蜘蛛」。 セットでお得。

「世界」ってもんをぶち壊してくれる奴がいると聞いて、みな無意識の奥ですこし(人によってはかなり)ときめいたりしたりしなかったりアポステリオリいまそかり。


もうカメラのファインダーはいらない。 そいつはもう、肉眼で見える位置にある。 



ざああああああああああああああ─────と。

雨でも降り始めたか、と錯覚しそうな音で、突風が走る。
カメラのファインダーが、ぶわりと振り回されたコスモスによって遮られる。
すぐに何事もなかったかのように風はなくなったが、まだコスモスはゆらゆら、揺れている。
一面のコスモス畑。
赤や白や桃・・・ところどころに黄色いコスモスが混じっているところをみると、人の手によって捨てられたコスモスが、脅威の生命力でここまで地面を侵食したかたち、なのだろうか。

「・・・コスモスかぁ・・・。 宇宙の名・・・。 花弁も偶数だし。 良いねぇ・・・好い善い・・・クラインの壷に活けるに相応しい」

真ん中に、一人の人物が、寝転がっていた。
体重を受けたコスモスがその下で圧死しているが、その人物は、気にもとめていないようだった。
軍服のようなコート。
よれたチューリップハット。
ハットから覗く、漆のように黒い短髪と左目。
右目だけが紫色をしている。
飴色したトランクが傍らに置かれて。
長い革製の編み上げブーツだけが、やけに洒落ていて。


男性にしては低く、女性にしては高い背。
女性にしては低く、男性にしては高い声。
何を食べても美味しく感じられる舌と、何を食べても生きていける胃袋。
頭の中に、旅の知恵と、楽器の演奏方法をたくさん。
右手に楽器、左手に鞄。
帽子に色とりどりの花を挿し、いつも心に、浪漫を。










「いい・・・けど。 ・・・今は冬じゃ、なかったっけか?」

腹筋の力で起き上がる。
きょろきょろきょろ、とあたりを見回して、ぐいと伸びをする。
「んー・・・んー・・・そうだよねぇ・・・今は12月の筈・・・12月・・・、うん、12月の31日。 の、朝から昼への移行時」
ぶつぶつと、独り言の多い人だった。
「地球温暖化、かな・・・。 それとも、この土地がやけに暖かいから、なのかな?」
誰と喋っているのだろう。


「コスモスコスモスコスモス・・・ああ、考えすぎて、ゲシュタルト崩壊してきた・・・コスモスって何だっけ・・・」


コスモスが、風に揺れている。

臆病そうな薄い空色に、頼りない雲の白。




太陽と



         不吉の星。













 旅をするのに充分とはいかないまでも十分な日だった。


 




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