ざぁ ざぁ ざぁ

雨が降る


 ざぁ ざぁ ざぁ



雨が降る
雨が降る
雨が降る

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ


 量が多く、だらだらと長く降る、この地域の雨を好きなひとはほとんどいない。

 時雨市の名前の由来は単純なことで、初冬の雨がやむことなく降り続けることにある。 明治のころは、とある異人さんが『この街の冬は私に祖国を思い出させる』というようなことを言ったとかなんとか。 その影響かどうかは知らないが、明治のころから戦争が始まるまでは異人さんたちがたくさん住んでいたのだという。 太陽の名を宿すこの国の冬に太陽が見られないのはいささか寂しいことでもあるのだろうが、この街以外を知らない僕にはなんとも言えない。

今の時刻は18時代の後半で、太陽は見られないに決まっていた。


ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ



























朝の外出
雨が降っている
太陽は雲の中だ
かなり寒い
いいぞ
かすかなゴロゴロの唸り
なんてすばらしい岩だ!
これは棲むにはもってこいの




「サティって馬鹿じゃね?」
 雨の日はいつもそんな結論に至る。 もちろんサティは好きだ。 けど馬鹿だ。 そして好きだ。
 雲が上空を覆って、とても息苦しい。 酸素の絶対量が足らないに決まっている。 ざわざわと雨が降っていた、なにか不吉で退屈な物語を紡いでいるようだ。
突風でお気に入りの傘が飛ばされてしまった。 吹いた際に、右手に持っていた傘と左手に持っていた鞄、右利きなのに鞄を死守してしまったのはお気に入りの傘と重要な鞄と、お気に入りと重要の圧倒的な差異によるものだったが、全く、さっきの自分を殴り飛ばしたい。 右手で。
忌々しくて舌打ちを一つ、足早に歩く。 もちろん上着で鞄を覆うことは忘れずに。 濡れた制服が肌に張り付いて気持ち悪い、靴が水を吸って気持ち悪い、ああどうしてこう、雨は鬱陶しいんだろう。 雨上がりの土の匂いは大好きなのに、それを楽しむのはずぅっと後のことだ。 カリフォルニアへ引っ越したい、あの最低限しか水分が存在しない空の下でオレンジを齧りたい。

実際問題として僕がカリフォルニアで生きていけるはずもなく、早く家に帰ってお気に入りのマグカップでお気に入りのココアを飲みたかったが、眼鏡が雲って濡れて一寸先すら危うい。 僕は臆病者なのでコンタクトレンズを装着するなんて嫌だったが、こんなときはレンズのほうが便利かも知れない。 いや、レンズも曇るのだろうか。 そうしたら、雲っても簡単に着脱できる眼鏡のほうに軍配が・・・。 とか考えつつ眼鏡を外した。 なくても見えないわけじゃない。

・・・おや?



はるか前方に、先ほど僕がなくしてしまった傘を見つけた。

雨具は須らく明るい碧でなくてはならない。 緑でもなく青でもない、グルーの傘。
誰かが、僕の傘を差している。
背の高くない人物だ、女性だろうか。
肩に傘の軸を預けるようにして、僕の方を向いている。




「あの」


ざああああああああと雨音にかき消されぬよう、大きめの声で呼んだ。

華奢な、年齢のよくわからない顔つきの彼女。


耳までの淡い金髪、肌は大理石のよう。 コーカソイドさんだろうか。 にしては彫りが浅い・・・気がする。
傘で陰ができて、目元は見えないが、
表情は、ない。
ように思える。

「その傘は、僕のものなんです。 返していただけると」

そこまで言って、はたと口を噤む。 返して? ばかな、何を言う? 彼女にこの雨の中、濡れて帰れと言うのか。
濡れネズミと成り果てた僕がそのまま帰るのが筋というものだろう。

くい、と首を傾げた彼女に、「あ、いえあの、いいです」と、間の抜けた言葉を発し、僕は走ってその場をあとにした。



























「おかえりィー、お湯沸かしてるよー、・・・・・・・・・・・・・・・・ずぶ濡れやんッ!!」
「ツッコミっていうのは関西弁で感想を言うことじゃねーぞ」
「ただいまは、兄ィ」
「ただいま」
「おかえりィー」

 ダイニングキッチンのテーブルについて本を読んでいた妹の知矢は、本にしおりを挟んでからコンロのヤカンをミトンで掴んで持ってきた。

「ウィチドゥーユーライクカッフィーオアティー?」
「・・・えーと?」
「・・・、カッフィー、オア、ティー?」
「あー・・・えーっと?」
「・・・。 ・・・。 ・・・。 コーヒーにする? 紅茶にする? それともミ・ル・ク? って意味だよ兄ィ、英語わかろうよー、おじいちゃん泣くよー?」
「ココア」
「お湯の意味、なっ!!」
「いや、粉末ココアは先にお湯で練ってから牛乳を注いでだな・・・」
「そういうところだけはお爺ちゃんに似たんだねぇ」

 くい、と肩をすくめてヤカンをテーブルに置き、知矢は廊下をパタパタと駆けていった。 「走るなー」「はーい」
 お気に入りのマグカップを取り出し、冷蔵庫の牛乳とパウダーでココアを作成する。 電子レンジにかけて待つこと数十秒。 できたココアをテーブルにおいてから、知矢が持ってきてくれたタオルを受け取る。

「兄ィ、ココア冷ます間に着替えてきなさい」
「おうよ」
「で、傘、どうしたの。 忘れたの」
「いや、えーと」

 ・・・どう言うべきなんだ?

「傘がなくて困ってるおねーさんがいたから、シンシな俺は彼女に傘を託して、自分は雨の中を走って帰ってきたんだよ」

 あれ?

「どっちのしんしなの」
「ツッコミどころはそこじゃねーぞ」

 おかしいな。

 彼女は 雨に濡れて など いなかった。











ざぁ ざぁ ざぁ
 雨がやまない



















────────
────────
────────
────────
────────
────────






ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ











 スペアの制服に袖を通し、朝練へ向かう準備をする。 バドミントン部。 可もなく不可もないスポーツ、それがバドミントン。

「今日も雨だね、生き物のような雨だねぇ」
「ナマコとか、魚介類?」
「うーんー。 そういうのじゃなくて、物理的に脊椎を失っちゃった哺乳類って感じ?」
「死に物じゃねーか」
「生きてない物と死んだ物は違うよ。 宝石とか切花とか、自然界にあるもので最も美しい物は、生きてない物と死んだ物、どっち?」
「あえていうなら空だな」
「生き物ね」

 適当に知矢の相手をしつつ、頭を物理的に振りつつ、胃にトーストとハムエッグとトマトと緑茶を放り込み、眼をごしごしこする。
 寝起き、一時間目が数学で六時間目が英語という木曜日、加えて低血圧。 僕のテンションは限りなく低く、不快指数は限りなく高かった。
 しかし学生という肩書きがついている以上、学び舎は僕のことなんぞ待っちゃくれない。

「あう・・・」

 太めのワイヤを編んで作られた傘立てをいくら確認しても、僕のお気に入りの傘はそこにはなかった。

「兄ィ、私の傘さして行きなよ。 私は折り畳み傘使うよ、ほら、あの赤いの」
「うん、ありがたく借りとこう」
「いってらっしゃい、車に気をつけて」
「いってきます、遅刻に気をつけて」

 カナリア・イエローの傘を知矢から受け取った。 笑顔を保てているだろうか。 知矢は僕の数少ない自慢だったが、色に対するセンスが僕とは全く違っていた。 カナリア・イエローは傘に用いるべき色ではない。 植木鉢で育てられる花に用いられるべき色だ。


ざぁああああああああああああああああああああああああああ。


 雨の中、学校までの道のりを歩く。
 カナリア・イエローの傘を雨が叩く。
 僕は無くしてしまった僕の傘のことを考える。 一ヶ月ほど菓子を我慢すれば新しい傘は買える、ただしあの色の傘はそうあるとは思えない。 僕も折り畳み傘を持っておくべきだったのだろうか、しかし折り畳み傘を開いた時のあの不恰好さはなんとかならないものか。 いや、スペアの傘を持っておくべきだったのか。 無くしてしまったものを惜しむのもそこそこに、もう新しいものを手に入れることを考えている、うーんー、資本主義思考。 先ほど上着のポケットから発掘された半年くらい前のガムを口で転がしつつそんなことを思う。 歯磨き粉よりも下手なミントによって、僕は不機嫌だった。 不機嫌だと僕はいつもくだらないことばかり考えている。
 しばらくして、カナリア・イエローの傘も思っていたほど悪くない事に気付く。 少なくとも、黒よりはずっといい(せめて制服のズボンが紺なら、僕の気分もまだマシなのに、どうして黒なんだろう)。 ぼんやりかすんだような街中を黄色が照らす。


ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ


「・・・・・・?」



 目の前の光景に眼をとめた。
 目の前の光景に足をとめた。
 目の前の光景に思考が少し、とまった。


ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ


 僕の傘。

 そうだった僕の傘、あのグルーの色した傘、なくしたんじゃない、

『・・・どうしてそんな傘をさしているの』

 黒い、ずっぽりしたコート・・・レインコート、を着て、フードを目深に被った女性。
 顔色と表情は伺えないが

「・・・昨日の」

 そうだ、僕の傘を持って行ってしまった、彼女が

『昨日は傘をありがとう。 お陰で濡れずにすみました。 けれど、どうして今日のあなたは、そんな色の傘をさしているの』

 くるくると綺麗に折りたたまれた僕の傘を右手で差し出す。
 僕はその傘を受け取った。








ざぁ ざぁ ざぁ
 雨がやまない



















────────
────────
────────
────────
────────
────────






ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ



「兄ィ、兄ィ、私の傘はー? あれ、気に入ってたんだよ?」
 知矢に睨まれた。
「兄ィ、兄ィ、どうして自分の傘は持ってるのさ。 見つけたの?」
 カナリア・イエローの傘はなくしてしまった。
「兄ィ、兄ィ、なんか返事しなさいよー、聞こえないふり?」
 そろそろ日が昇る。









ざぁ ざぁ ざぁ
 雨がやまない



















────────
────────
────────
────────
────────
────────






ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ



「兄ィ、今日も朝練なの? 寒いのに暗いのに、バドミントン部って大変なの?」















ざぁ ざぁ ざぁ
 雨がやまない




















────────
────────
────────
────────
────────
────────






ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ





「兄ィ、兄ィ」



ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ

 ざぁ ざぁ ざぁ

ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ ざぁ


































 ─────────────────────────────────────────────────
──────────────────────────────────────────────────
─────────────────────────────────────────────────!








絹を裂くような女性の声がして我に返ると僕は血だまりの中にいた。


血だらけ、血まみれ、血みどろ、血だまりの中。
べとべとと制服が染まっている。




 目の前にいた金髪の女性が、眼を見開いて僕にしなだれかかってきた。 しなだれ? 違う、物理的に僕の方に倒れてきたのだ。 じゃあこの血は彼女の、血?

「・・・・・・え?」

背を刺されたのだろうか、一体誰に?

「え・・・・・・?」

彼女が地にふしたあと、僕は彼女を刺した犯人をこの目で確かめた。

「・・・え・・・?」

まさか。

「・・・知矢・・・」

赤い赤い、折り畳み傘の柄を持った知矢が、呆れた顔で立っていた。


「知矢、何を」

「気がついたの? 兄ィ。 まったくばかじゃないの」

知矢は、何を言っているのだろう。
ぞくり、背筋が震える。
腰が抜けてしまっているのか、うまく体が動かない。 重い、服が血を浴びているからだろうか。
傘はけして鋭いものではなかったが、現にこうして金髪の彼女が倒れて、血が、ならば、
腕の力だけで、金髪の彼女のそばまで寄る。
視界がどうもハッキリしないと思ったら、僕は眼鏡をかけていなかった。


彼女のその眼は、ブルーともグリーンともいえない綺麗な色をしていたが、白目が血走った状態で、僕を睨んで、そうして眼を閉じた。
・・・もう、動かなかった。



どろり。
どろりどろりどろりどろりどろり。

白い肌に黒い服をまとった彼女の体が溶けて──溶けて?──きて、僕は驚いて手を離す。





・・・え?
違う、べたべたと冷たいこれは・・・雨水、か?






ぞくり。
思考がパニックに陥って、右手に握っていたグルーの傘を払い落とした。




血なんてもう、どこにもなかった。
彼女はもうどこにもいなかった。














「兄ィ、殺されるところだったんだよ。 この前の木曜日からおかしかったの、自覚、ないでしょ? 木曜日から学校に行ってないって、兄ィのお友達に片っ端から電話して証言をとったよ。 兄ィ、昼間はずっとここに通ってたんだよ。 やつれて、髪も淡い色になっちゃって、衰弱死するところだったんだよ」

「・・・・・?」

辺りを見る。

見渡す限り、大理石で作られたのであろう十字架や、石碑が、ぞろぞろと列をなして・・・

「ここ・・・って・・・」
「町外れの外人墓地だよ、よく西洋肝試しをしたじゃないの。 もう5年くらい来てなかったから、忘れるのも無理はないけど。 それに、ここってこんなに広かったかしら。 帰れるかしら。 赤い糸はないけど、あったとしても足りないでしょうね」


「・・・」


「さ。 もう終わったんだから帰ろう。 立てる? 私は私の傘をあきらめるから、兄ィも兄ィの傘をあきらめなさい。 お払いとかしてもらった方がいいのかしら、教会にでも行って? でも聖水って、雨水から作るんじゃなかったかしら」




折りたたみ傘を左手に持った知矢が、僕のほうに右手を伸ばす。
僕はその手を握ったが、どうも力が入らず、立ち上がれなかった。



「ああもうこんなに痩せちゃって。 帰ったらカロリーと糖分が一般的基準を凌駕したココアを作ってあげるんだから、残さず飲みなさいね。 急に痩せちゃった分、さっさと太りなさい」



もとから赤かった(ああ、そういえば祖母が、赤は退魔の色だと言って、よく僕たち兄妹に赤い手ぬぐいをくれたっけ)折り畳み傘の所為で、知矢の顔には陰が出来ている───その瞳を覗かずにはいられなかった。



暗い中でもはっきりと分かる、英国人の祖父によく似たエメラルドのような瞳を瞬かせて、ふふんと得意げに彼女は笑った。

























































inserted by FC2 system