私(たち)の創造主がどこからいろんな肢体を(死体を! あ、でも腕とかだったら、切断されても本体は生きてられるのかな? 私は前腕だから・・・うーん、どうだろう、両手があるからとりあえずセルフ合掌)持ってくるのかは分からない。


もし腕のなくなった私の本体が生きているならさぞ不便なことだろう。 いや、すごく高等な義肢をつけてもらって、私のときより便利になっていると良いなと思う。
はて、こんなことを考えるのは何回目だ? 私は腕だから記憶するデバイスとしての脳味噌から切り離されている。 だからものを記憶しておくのはわりと困難だ。 あれ? じゃぁなんでものを思考することができるんだろう。 それが生命の不思議ですね。 私は腕だから眼と鼻と口と耳とを持った首の彼女がうらやましいなと思ったけれど、視覚と嗅覚と味覚と聴覚があるってどんな感じなんだろう。 これもまえに考えてた気がする・・・失礼だからやめよう。 ないものねだりは良くない、きっと。
そして私と名乗ってはいるけれど、生前は男だったのか女だったのかわからない。 きっと女だろう、十代中ごろのキャピキャピした馬鹿なことが若いっていいねのひとことで免罪符になるような。 誰かに持ち去られるほどウデの私は魅力的だったのだろうか。 きっと手首に傷だとかなくて(私そんな繊細じゃないもの!)、腕に根性焼きの跡だとかなくて(私そんなヤンキーじゃないもの!)外に出なくて日焼けしてなくて汗疹とかなくて英スラングではブルーブラッドっていう感じのお嬢様? お嬢様といえば室内でピアノぽろんぽろん。 そうよねピアノすると指にょきって伸びるっていうもんね白くて長い指は腕フェチの大好物だわきっと! ほーほほほ私はお嬢様よ八木(手を叩いて執事を呼ぶ)!カモミールティーを入れて頂戴! (ハーブティーがカモミールしか思い浮かばないってどうなの!)


『ねぇ腕ちゃん、ヒマだから相手してよ』
『私もさっきまでぼけーっと考え事してました。私の想像の中では私は資産家の娘で、毎日バイオリンとピアノの稽古に明け暮れ、唯一の楽しみはアレクサンダーと遊ぶことでした』
『深窓のご令嬢だったら、アレクサンダーよりマリアンヌちゃんだと思うわ』
『あーグランドピアノの上でしっぽを気だるげにぱーたぱーた』
『私は無意識にひとりしりとりをしてしまうほどヒマだったわ』
『じゃぁ二の腕ちゃんからどうぞ』
『しりとり』
『りかしつ』
『つり』
『リール』
『瑠璃』
『リリス』
『スリ』
『リンダリンダー』
『ダリ』
『リリー』
『そういえば肩ちゃんが言ってたんだけど』


二の腕ちゃんは意地悪だけど意地悪なところがなきゃそれなりに良い子だ(でも意地悪なところがあるからぞっとする!)。 二の腕ちゃんと私は創造主の手により、細い糸で繋がっている(よくある赤いやつじゃなく)、なんかピアノ線みたいな細い糸でかがり縫いのように(あれ?まつり縫いだっけ?)。 二の腕ちゃんが言うには、自分のとなりの部位とは話(意思の疎通って意味で)ができるらしい。 二の腕ちゃんの隣、と言うと、前腕である私と、肩ちゃん、ということになる。私は腕と言うか手のひらも指もそろっているので日本列島長崎県。 二の腕ちゃんが唯一の情報源だった(人間の体って正面からみるとシンメトリーだけど、私は右も左も揃っていて、その両方の意識が私、ということになっている。 自分でもさっぱりわからない)




『そろそろ、足のほうに差し掛かったらしいわ』
『へぇ。 足。 フトモモとか』
『ヒザとか』
『カカトとか』
『弁慶の泣き所とか』
『アキレス腱とか』
『ジークフリートの菩提樹とか』
『違う』
『これで人魚作る説も駄目ね』
『肩ちゃんは何て言ってます? 肩とか背中とかうなじとからへんなら、羽根なり翼なりくっつけてハーピー気取れるんじゃないです?』
『ハーピーと天使は違うわ』
『ふぅん』
『猫耳ウサ耳くっつけるわけでもないらしいしねぇ・・・』
『それは頭ちゃんに聞いたんですか』
『肩ちゃんに聞いたのよ。 肩ちゃんは首ちゃんから聞いて、首ちゃんは顔ちゃんから聞いて、顔ちゃんは頭ちゃんから聞いたって言ってたわ』
『はなし食い違っちゃいません?』
『さぁね。 真実を歪曲できるほど、パーツになった私たちの能力は高くないと思うわ。 頭ちゃんは脳味噌あるから別としても』
『す、すべては頭ちゃんの妄想で・・・』
『却下』
『せ、世界のどれだけの人間がラファエロとかダ・ヴィンチを崇めていると思ってるんです? 誰も真実なんか欲しがりませんよ。 ヒトは魚類じゃありません、人間は嫌なものを目の前にしたとき、それを見ないで良いように瞼ってものがあるんですよ』
『世界にはシャガールもピカソもムンクもロダンもカンディンスキーもいるわ』
『でした』





お喋りな二の腕ちゃんがお喋りな肩ちゃんとのお喋りに夢中でわたしは暇をもてあましロートレアモンがあんなことを言ったせいで単なるランダムですら芸術と称されるようになってどうなのーとぐだぐだと思考を積み重ねていて、



突 如、世界が 繋がった。





視覚が覚醒したらしく眼が痛い
嗅覚が覚醒したらしく鼻が痛い
触覚が覚醒したらしく皮膚が痛い
味覚が覚醒したらしく喉が痛い
聴覚が覚醒したらしく耳が痛い

痛覚を破り、わたしは世界を知覚した。



そしてわたしはあたえられた世界を理解した。


目の前にある、つやつやとした一片の曇りもないガラス・・・に映る、一人の女性。

鴉のように黒く長い髪は絹を思わせる、漆のように黒く大きい瞳は黒水晶を思わせる、高い鼻、薄い珊瑚色の唇、華奢だけれど芯の伺える体躯・・・。

・・・ああ・・・・・・ これは鏡だ・・・!


ハーピーでも天使でも人魚でもなくもっと簡単なことだったんだ、ギリシャ神話の癖にペーペーしたピグマリオンの話、わたし/あたし/わたし/私/ ウチ/あたし/わたし/私/ 私/あたし/わたし/わたし/ わたし/あたし/わたし/アタシ/ わたし/僕/あたし/わたし/ 私/わたし/私/アタシ/ たちは糸でつながれて//////// ・・・////////       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!・・・・・・・・?



「へぇ、もっと暴れるかと思ったけどね・・・、紹介をしよう、あんたはガラテア-01だ。 立てるかね」

声がして───


───振り返る。



視界のほとんどを覆う、ゴーグルと白衣と帽子とマスクと手袋で武装した目の前の人物が、握手を求めるように右手を差し出していた。





ゴーグルの向こうの顔は、きらろりと光沢のある、翡翠のような緑の瞳を していて

翡翠/

緑/

キレイ/

すてき/

いいな/

わぁ/

欲しい


欲しい?



その眼/

翡翠色の/

わたしは/

欲しい 欲しい/欲しい/欲しい/欲しい/欲しい/その眼を/その目が/瞳を/翡翠色の/あたしに/ヒスイ色?/綺麗な/緑色の/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/その眼を/

わたし/あたし/わたし/私/ ウチ/あたし/わたし/私/ 私/あたし/わたし/わたし/ わたし/あたし/わたし/アタシ/ わたし/僕/あたし/わたし/ 私/わたし/私/アタシ/ に頂戴!/頂戴!/頂戴!/頂戴!/頂戴!/頂戴!/頂戴!/頂戴!








わたし/あたし/わたし/私/ ウチ/あたし/わたし/私/ 私/あたし/わたし/わたし/ わたし/あたし/わたし/アタシ/ わたし/僕/あたし/わたし/ 私/わたし/私/アタシ の思考は脳味噌と神経を通じニューロンとシナプス/ってそんな詳しいこと覚えてないわよ!/電気信号は全細胞に命令する/その瞳を


前腕は脳からの命令を忠実に遂行する

肩を上げ腕を上げ前腕を上げ指先が




男の眼球をゴーグルごしに え ぐ り 、 と り だ し た


わたし/あたし/わたし/私/ ウチ/あたし/わたし/私/ 私/あたし/わたし/わたし/ わたし/あたし/わたし/アタシ/ わたし/僕/あたし/わたし/ 私/わたし/私/アタシ の瞳には 顔面を両手で押さえ大きく口を開けて絶叫する男の姿が見えた。 どろりと破片で手が汚れて、水分が垂れ、白い肉がこぼれて、熟していないイチジクのようだと思った。 ただし聴覚はさぼっているのか悲鳴は聞こえない。






綺麗なの正体は
・・・カラーのコンタクトレンズ、だった。

知覚なんざ当てにならないのだと学び、騙されたようで、わたし/あたし/わたし/私/ ウチ/あたし/わたし/私/ 私/あたし/わたし/わたし/ わたし/あたし/わたし/アタシ/ わたし/僕/あたし/わたし/ 私/わたし/私/アタシ はとても不愉快な気分になった。


















































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