≪塗りつぶすぜ! 俺たちで彩ってやる! この世界に何を期待しーてーるーんだーい?

 塗りつぶすぜ! もれなくくまなく変えてやる! 面白きことも無き世をカーラーフールに!

 真っ白じゃつまらないだろ 真っ黒でも飽きるだろ 目が痛くなるくらい色とりどりに!!




「ハイハイー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・、何すかー・・・また無言ですかー・・・切りますよー・・・
カウントダウン開始ー、5ー、4ー、3ー、2ー、1ー。 ぜろー。
じゃー、バイバイー」





わーきゃー賑やかなファミレスの中、かかってきたのは悪戯電話だったらしく、心太は一方的に通話を遮断した。 今月に入ってから、俺が見ているだけで6回目。 非通知の電話には出るなと注意しているのだが、それが効果をなす様子は無い。 どこかに「イタ電かけてやって!」の落書きがしてあるのかも知れない。 この街には落書きなんてほとんど無いから、もしくはネットで出回っているのか。 だったら回収しきれない。 いっそ番号、変えれば良いのに。


「たーくーさー。 何回目だコレ。オレが数え始めてからもう13回目だぜ? ジューダスだぜ? イタ電ばーっか。」

予想より多かった。

「心太。 せめてスターブラックの着メロはやめてくれ。」

「なんで。 懐かしくね? こーのせーかいはー」

「懐かしいけど・・・。 何年前だ? スターブラックって。」

「12年前。」

干支一回りかよ。



スターブラック。





俺たちがまだガキだったころ放映していた、戦隊モノの通称である。



リーダーのスターブラックを筆頭に、ツンデレッドミゼラブルーナサケナイエローカンニングリーンエントロピンクリタイアメジスト、といった7人編成で『なんでもないことでもそれがちょっとした善意につながる』というテーマに沿って、悪の王国「ヒトマカセピア」を構築しようとする「ウシロム王」の配下たちと戦い、成長していく物語である。

なかでもスターブラックは、動物園の山羊に0点をとったテスト答案をあげたり、街中の喫茶店のシュガーポットを持ちかえったり、女の子のスカートをめくったりとかしちゃう悪い子(作中設定18歳)だった。

(山羊が「ありがとう、わたしはひとから親切にしてもらわないと人間に戻れない魔法をかけられた執事だったのです!」と黒スーツの初老の男性に変身したり、街から砂糖がなくなったおかげで人々の糖尿病が緩和したり、女の子のスカートに隠れていた脚にウシロム王側近のシンボルであるピラニアのタトゥが彫られていて「貴様、なぜわたしがウシロム様の手下だとわかった!」な展開になったりするわけだ)


これはスターブラックの1年前に放映していた『ヘタレンジャー』の二番煎じなわけだけれど、ちびっこからそのお父さん・おじいちゃん世代まで、「勇者の心」をどこかに秘めた人々のハートを掴み(『ヘタレンジャー』に肩入れする熱烈ファンからアンチを受けたりしたけれど)、まぁ、テレビ番組としては成功した部類に入るのだろう。 とゆーか、ツンデレッドとエントロピンクの両方が、美人でセクスィ〜なおねいさんだったからだと思うけど。 そしてスターブラックの1年後に放映された『それゆけ僕らのルサンチマン』は酷い出来だった。 ああ、あれは酷かった。 うん。






「絆 繋げ スターブラック! 空 目指せ ミゼラブルー! 真 求め ツンデ・・・」

まだ歌っていた。



「せめて、せめて非通知は普通のコール音にしろ。 PRRRRRR!ってヤツ」

「嫌」

断られた。




「にしてもなー・・・。 くろべー? だっけ? 主人公は理科全般得意だったはずだぞ・・・。 あったじゃん、凧上げする話。 あれ、フランクリンの模倣だろ?」


「スターブラックの本名は黒中圭介。  くろべーは、なんかのドラマの主人公だった。 最終回見逃したな、それ」

「ありがとう。 そこまで記憶力があるなら勉学に活かせ」

「う」

心太は頭を抱え、唸る。 目の前には物理の宿題プリント。 しかし心太に理科を解かせると、怒ったアインシュタインやシュレーディンガーやラプラスや湯川秀樹たちが、それぞれ発見したいろいろにストをかけてしまう恐れがある。 それは避けねばならぬ。 (心太は万有引力について「ニュートンは林檎が木の下に落ちることを知らなかったのか?」なんて言ってしまうほどなのだから)


「うし、1頁目できっ!」

「初っ端から間違ってる」

「へ」

Q1.次のうち、物理に関係の無い法則はどれか。


「グレアムの法則とグレシャムの法則をどうやったら間違えられるわけ!?」

「Bを選んでみた!」

「てゆーかなんで記号問題全部Bなんだよ」

「BLACKのBだ!」

「・・・まさか全部分からないのか」

「当たり前だろ!」

「ラビットパンチ!」


テーブル超えてヒット。 ぐはーっ!と雑魚ちっくな悲鳴。 ヒーローにはほど遠い。

(言っておくと、ラビットパンチとはボクシングに置ける禁じ手、後頭部への攻撃である。 決して俺の名前が平戸だからとか、そんなんじゃない。)

グレシャムの法則にはストがかかるべきだったか。 ほう、と一息ついて、ジンジャーエールのストローを口にくわえた。 空だった。


テーブルの横の通路にウエイトレスが居た。

タイミングが良すぎたので、「おかわりはいかがですか?」のウエイトレスかと思った。 しかし冷静に考えれば、ここがそんなに待遇いいわけない。 とゆーかこれドリンクバーだし。
そこそこ可愛い容姿をして、お祈りするかのように手を組んでいる。 おや? 耳の上から何か黒いものが左右対象に飾られている。 女の子の間ではこんなカチューシャが流行っているのだろうか。 ゴス系・・・フェアリー系? ポニーテールにカチューシャは似合わないと思うんだ、個人的に。 いや、違う、その笑顔と、立ち上るオーラ。


・・・あ、マズい。 お祈りじゃなくて、ぽきぴきって音が。






「ペチャクチャペチャクチャ五月蝿ェんだお前らこの夏休みのお昼時に何ドリンクバーだけで4人テーブルに数時間居座ってやがんですかコ・ノ・ヤ・ロー!!!!」







ぐはーっ!!






































































ファミレスを追い出された。 俺のプリントには心太のコーヒーがぶちまけられ使い物にならなくなってしまった。 しかたない、心太のプリントの解答欄はさっき全部消したから、よし、それをコピーする強行策に出よう。 40枚だから、400円。 財布を確認すると、千円札が1枚減って百円玉が7つ増えていた。 ウエイトレスすげぇ。 ていうか一杯しか飲んでねぇ。



「おいこの脳味噌トコロテン野郎、コンビニ行くぞ」
「北欧ストアはこのまえ出入り禁止になったばっかじゃぁ」
「スマイル・マートはまだ大丈夫だろ」
「あそこは良心的だね。 だけど俺はトコロテンじゃない」


ここらにはコンビニが二軒しかないので、スマイル・マートは模範少年で行かないと。

・・・徒歩で。 (原チャは夏休み前に没収された。 いつ帰ってくるのやら)
まったく、夏休みにこんなに馬鹿やってる受験生なんて。









じー じー じー

太陽と蝉が妙にはりきる夏の空。 地球温暖化?

「蝉が五月蝿いってさ、こう、シチガツセミイ、でうるさいにならないかなぁ」

七月蝉い?

「ならねーと思う」

蝉より蚊のほうが煩いものだと思う。 太陽がアスファルトを焦がす音も上位にランクインするけれど。

≪塗りつぶすぜ! 俺たちで彩ってやる! この世界に何を期待しーてー・・・


「ハイハイー?」


・・・いや、本当に煩いのは心太の電話だった。 スターブラックの着メロい。

「14! 徳川家茂!」

「二桁になった時点でなんか対応考えろや」

「わかったから平戸、こめかみヒクついてる。 暑いのはムカつくだろうけど、ちゃんとカルシウム摂取しろよ」

「ラビットキック!」

ぐはーっ!




心太の体が地面に着地するまでの間に電話を奪い、復活するまでの間に電話を操作する。 俺のと同じケータイ会社なのでぱぱぱっとマナーモード施錠。

ちか、とストラップが日光を反射する(今日だけで何日分のビタミンDを量産するのだろう)

艶のある漆黒のビーズで緻密に形どられた腕時計のようなマスコット。

妙に既視感覚をくすぐると思ったら、黒い星型のビーズが埋め込まれている。

あー、黒・・・だれだっけ、がスターブラックに変身する際に使う魔法のアイテムだ。


懐かしいな・・・オープニングシーンがよみがえる。 高校生になってまで着メロに設定する心太ほどではないが(とゆーかどこで手に入れたんだよ? ストラップも!)、俺もあのころは贔屓にしていた。 主役のスターブラックよりクール派のミゼラブルーが好きで、あのころはジャンケンで勝てばミゼラブルーになれたのだ。 行け氷の精よ! ミゼラブリザード!


「・・・。 ・・・。 ・・・。 ちゃらぱりっぱらー♪」

 あ、生きかえった。 電話を手渡す。

「おうおう、平戸はありがたいね! 実はマナーモードの仕方わからなかっ「素直に言え正直に! いや説明書読め! らびっ・・・「平戸おまえ何食べたい? 奢るよ!? 300円までな!」

 だらだらだらと心太の額からは大量の汗が流れていた。 さっきのコーヒーで摂取した水分が汗に緊急変換したらしい。

「バーゲン・ダッツの3段・・・」

「え゛」

「ウソ。 ガガーリンフラッペで」

「おっけーおっけー! ガガーリンフラッペー」

スマイルマートの扉を開け(ぷろりろぱらりろ♪)、俺は扉左手のコピー機を占領する。 チャリコン、バタリ、ピ、ガガガガガガ。








コピー機から目をあげる。 雲ひとつない夏の空は青いというか清い。 コンビニの壁を形成するガラスがレンズの役割をして暑苦しい。 ブラインドは…このまえ壊れたんだっけか? 無駄に縁起の悪い名前の女子高生が暴れたとかいううわさを聞いたことがある。  よく覚えてないけど・・・血吊る、だっけ。



心太は手持ち無沙汰なのか、雑誌のコーナーをうろうろしていた。 県内ウォーカーを手に取る。 切り裂きジャック事件がトピックスらしく、表紙の赤い明朝体が禍々しい感じだ。 ネタがなければ切り裂きジャック事件をとりあげる。 この雑誌もすぐ潰れるのだろうなと思った。

なにを思ったのか心太はその雑誌を籠に入れ、場所を移動した。 買うつもりか。



屋根の上の切り裂きジャック。


俺が物心つく前からこの街(大都会の隣街でいわゆるベッドタウン)に伝わる、刃物を具現化したような都市伝説。 マジで死者も負傷者も出ているが、それは伝説に便乗した模倣犯の犯行じゃねーのかというのが俺の意見である。 だって現に俺、中坊のころに包丁で右腹を斬られたからね。 スゲー俺スゲー生命力!なんてハラキリを気取ってみたところで死に損ないの原田(小さいころ新撰組を893だと思ってたぜ!!)。 出藍の誉れを唱えたところで、模倣が優れているのはカンタベリー物語くらいのもんだろーが(ん? 師弟関係じゃなかったっけ?)


ガガガガガうぃーん、うぃうぃうぃー と音を立てて、以上をもちまして、総てのコピーが終了いたしました。

紙を全部まとめてファイルに挟む。


「心太ァ」

「終わった?」

「おうー」



心太は右手でコンビニ袋を持ち上げる。 さっきの雑誌が覗いていて、濡れないようにだろう、さっとフラッペのパッケージを俺に寄越した。


店から出ると、数分の間に太陽が移動したらしく、暑さが増していた。 こんな中じゃブラック・ジャックですらマントを捨てる。


ガードレールに腰掛け、俺はフラッペを、心太はコーヒーゼリー(Lサイズ)を開ける。  こいつどれだけコーヒー好きなんだ。

「暑いなー」
「んん…なんで俺たち、夏なのに外でぶらぶらしてるんだろう」
「小麦色の肌になるため?」

嫌味を言ったらアホな答えが返ってきた。 俺はフラッペを食べることにだけ集中する。

ガガーリンフラッペ。 なんのことはない、各種フルーツと練乳、青いシロップをかけた、コンビニで買えるレベルのチープな高級感が漂うカキ氷の販売名だ。 「地球は青かった」のガガーリンだろうけど、ガガーリンが青かったわけじゃないだろとツッコミたい。 それにたかがカキ氷が地球と同レベルなわけないじゃん。 っていうか、空が見えるのって単に空中の埃の所為じゃん。 青い食べ物が不自然だなんて、青い色素をとりこんだところで人体には肝臓という素晴らしいシステムが存在するのだから、それに任せとけや。 美味しければ良い。 しゃくしゃく。




「暑いな…、もう正午は過ぎたはずなのに」
「太陽の南中、ってやつ。 実際は正午より後だって、小学校で習わなかったのか?」
「だから、理科は全般苦手なんだって」
「さよか」


今何時だっけ? と思って、ケータイを開く。 電波と電池残量が2つずつ、時刻は13:14。 メールが1通届いていた。 俺のケータイは24時間マナーモード。

 

11:39

From  コージロー
Subject 心太と平戸へ


来れたら、公民館に昼の2時
集合。 動きやすい服装をし
てくること! 金槌とかはこっ
ちで用意する。










召集礼状だった。


心太の着メロがスターブラックであることを考慮して俺のケータイにかけるか…。 意外と巧妙なヤツめ。



「心太ァ」
「ん?」
「コジローから」 
「コジロー言うな」
「銀河を翔けるロケット団のふたりにはー」
「ん? …。 …えー。 …えー、2時ィ? 公民館…ってああ、先週の台風で崩壊したんだっけ、あそこの屋根」
「らしいな」
「屋根…、切り裂きジャック出たらどーすんの」
「ん? 俺は≪ジャックは屋根の上ではヒトを殺さない≫、って聞いたけど?」
「やーねぇ」←棒読み
「へぇーかっこいー」←棒読み


雑誌を扇ぎ、空を仰ぐ心太。 偽物のブロンドが光に透け、両耳のイヤカフが煌く。 この金と銀が、ただ幼少の砌、贔屓にしていたヒーローの模倣だなんて、一体誰が信じるのだろう。 心太は酒も煙草もやらないし、バイクだって原チャしか持っていない。 不良というならば、俺たちのリーダーであるコージローのほうがよっぽど不良である(金髪にピアスだぜ?)(そして俺は茶髪)。  心太は許される限りずっと、髪と眉を完全な金に染めるのだろう(でも目は黒いまま。 「俺の目が黒いうちは」というのがスターブラックの決め台詞)。 悪も正義も良も不良も模範も模倣も、ピーター・パンには通じやしないのだ。 絶対正義とは何か、なんて、知りたきゃ週刊少年ジャンプでも読んでいれば良い。

俺も真似して空を仰ぐと、

まだ自分をぼくと呼んでいたころを思い出す。 大人になったら何になりたい? ケーキやさんになりたい! と、常套句に常套句を返していたが、切にあれは本音だった。 といってもパティシェになりたかったわけでなく、ケーキに囲まれる日常を送ってみたかったのだ。 卵アレルギーに生まれたので、ケーキを食べた回数など、18年も生きていて2桁にすら届かない(一度シュークリームを食べて、卵たっぷりのカスタードで体中に斑点ができた。 それ以来はモンブランくらいしか食べていない)。 泣く泣く夢を(たった6歳で!)諦め、それ以来は「ひこうきのうんてんしゅ」と答えていた。 将来の夢を大声で宣言していただなんて、自分がそこまで傲慢で不遜で無知だったなんて、信じたくない。
ていうか飛行機の運転手って何だよ、操縦士だろーが。 俺の阿呆。









ビルの上を覆う雲と、轟音と共に浮かぶ旅客機(青を邪魔する生クリームと、青を遮る飛行機!)









空を飛ぶこととお菓子の家は、人類最大の…!











「ラビットブリザード!」

むしゃくしゃして、心太に残り少ないフラッペを投げつけた。



























臆病な兎とピーター・パンなトコロテンの会話。

「この脳味噌トコロテン野郎」って言わせたかっただけさ!

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