白い翼の民族がいました。


黒い翼の民族がいました。


翼を持たない、知識だけの民族がいました。


翼を持たない、刃物だけの民族がいました。


魔呪を司る民族がいました。



では簡単に、


白翼民族
黒翼民族
知識民族
刃物民族
魔呪民族


と呼びましょうか。




白翼民族と黒翼民族は、戦い合っていました。


戦いの目的などありません。


あったのかもしれませんが、誰も知りません。


言えることは、その戦いは、ふたつの民族には、とても楽しいものだったということです。



知識の民族は、翼を持っていないため、とても知識が発達した民族でした。
しかしそのかわり、とても愚かだったのです。
片寄りすぎていた、とでも言えば良いのでしょうか。



刃物の民族は、翼も知識も持っていないため、とても感情が豊かでした。
しかしとても傷付きやすく、己を守る為に、いつも刃物を持っていました。
自分を攻撃してくるかもしれない人々を、すぐに抹消するためです。



魔呪の民族は、もともと少数派だったので、くわしいことはわかりません。



みっつめ、よっつめ、いつつめ。
外見的な特徴は何もないので、見分けるのは困難でしょう。


ああ、よっつめはいつもびくびくしているから、それだけならわかりますかね。












ことのおこりはずぅっと前に遡ります。




ええっと、いつだったかな。



御爺様に聞いたはずなのですが・・・。



・・・まぁいいや、かなり前とだけ言っておきましょう。




翼を持った民族同士の戦いは、かなり秘密裏に行われていました。


戦争が行われているという事は、翼を持ったふたつの民族しか知らないことでした。




あるとき、知識の民族の学者が、道に迷ってしまいました。



そこで目にしたのは、黒翼民族の戦士と、白翼民族の戦士が戦っているところでした。




知識民族の彼は「わぁ!」と叫びました。



それに驚いたのでしょうか、白翼民族の戦士はくるりと知識民族の学者のほうを向きました。


チャンス!とばかりに、黒翼民族の戦士は、白翼民族の戦士の首を手刀で打ちました。





知識民族の学者は驚いて、体も動かなかったし声も出ないようでした。


黒翼民族の戦士は、知識民族にはこれっぽちも興味がなかったので、なにもせず、その場をあとにしました。






実際、こういうことは多かったのですよ。



それに共通して言えることは、「白翼民族は、いちいち知識民族の登場に驚いていた」ということ。



白翼民族は、自分たちの行なっている戦いが露見する事を非常に嫌いました。
自分たちの評価が悪くなると思っていたからです。



黒翼民族はそれを活かし、いつも勝っておりました。



知識民族は、「黒翼民族は白翼民族を虐げている」という、根も葉もないことを考えていました。
刃物民族は、「戦いこそが悪だ」という、至極全うなことを考えていました。
魔呪民族は、「どうだっていいさ」と、考える事を放棄していました。



黒翼民族は、そろそろ自分たちの立場が危ういぞ、ということに気付き始めます。



黒翼民族は頭が良かったので─良く言えば悧巧で、悪く言えば狡猾、ってやつです─白翼民族への直接攻撃は止めました。



そのかわり、刃物民族をつかって、白翼民族を攻撃しました。



刃物民族に「白翼民族がきみたちを狙っている」と言えば、刃物民族たちは震えながらも、白翼民族を攻撃しにいくのです。



刃物民族の全員が、やらなければやられる、というポリシーを持っていたからです。



知識民族は、自分たちのまわりがどんどんどんどん血に染まっていく事に、かなりの恐怖を覚えました。



そして、いつもがくがくぶるぶると震えていたのです。



白翼民族は単純な性格をしていたので、黒翼民族への攻撃をやめ、刃物民族への復讐をはじめました。



しかし、白翼民族には、刃物民族と知識民族の区別ができません。



誤って知識民族を攻撃することもしばしばでした。



知識民族は、「白翼民族が善」と考えていたので、自分たちを攻撃してくる白翼民族を「白翼民族が、黒翼民族に狂わされている」という解釈をしました。



やれやれですね。



まったく、短絡的です。






こんな歪んだ戦いを──戦いとは常に歪んでいるものですがね──続けていたからか、とうとう魔呪民族はぶちきれました。



やってられねぇよ!
こんないくさ、オレ達には関係ねぇよ!
火の粉をこっちにまで飛ばすなよ!



と。



自らの姿を小型の獣に変え、魔呪民族は、ひととしての姿を捨てました。



獅子によく似た動物で、ひとが両手で抱えられるほどの大きさです。



のちにそれは「猫」という名で呼ばれます。






さて、魔呪民族が獣に姿を変えたのち、黒翼民族と白翼民族の戦いはかなりヒートアップしてきました。



間のわるいことに、自暴自棄になっちゃった刃物民族が、自分たち以外を信じられなくなり、白翼、黒翼、知識、それぞれに会うたび抹消するようになりました。



やれやれです。



刃物民族は自分たちの敷地からめったに出ることがないので、それだけが救いです。















まだこの戦争は続いているのです。



白翼、黒翼、知識、刃物。
どれが強く、どれが弱く、どれが正しく、どれが誤りか。



そんなものは微塵として存在しません。



みな、ことの真実など見えていないようなものです。






ん? 翼?



長い歴史で血が混じっていく中で、翼はどこかへ行ってしまいましたし。



翼、あれって劣性遺伝らしいのですよ?



うーん、逆に優性遺伝なのは、知識民族ですかね。









僕の御爺様が言っておられたことなのですが、僕の先祖は魔呪民族だそうです。



ううむ、だから人語を解すことができるのでしょうね。



魔呪の能力を持っていないので、そのなかではオチコボレなのですけれど。












いやいやいや、どうすればいいのかなんて聞かれてもですね。



あなたもそう聞くんでしょう?
聞くつもりはない?
ああそれは失礼。


・・・困りますって。
そんな顔されても。


・・・触らぬ神に祟りナシ、なんじゃないですかァ?



おっと、神様なんて、頼るもので、信じるものじゃないですよ。



僕はただの猫・・・ですからね。
ぎにゃ。



猫、飼ってみたら如何です?
猫は、善人にはかなり懐くし。
僕よりも、もっといい情報を教えてくれるかもしれませんよ。



僕はここで逃げさせて頂きますけれども。
ツナ缶、ありがとうございました。





おや?
あなた、泣いているんですか?



大丈夫です、恐くなんか、ないですよ。









にゃん!?






ぁの、ぁのちょっと!
苦しいって首!



ま、魔呪ぅ?!
ぼくは、
喋るしか脳がないんですってば!
ひ、ひ、ひぅ!



こ、ここっこここ殺さないでくださいぃぃい!
しまった、あんた、刃物みんぞ・・・
























ぎにゃー!!
















































































背景提供・・・水没少女 さま
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